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2010.12.13

正当な賛美

前回は「改正案の条文を、額面通りの精神に則って運用するのは事実上不可能である」という主張をしましたが、今回は「不当に賛美」という語句の問題点、欺瞞性について更に踏み込んで考えてみましょう。

「不当に賛美」した表現を問題視するという事は「正当に賛美」するのなら構わないという事になります。そうでないのなら「不当に」などという形容は批判の矛先を鈍らせるための無意味な装飾という事になりますからね。

では、ひとつの思考実験をしてみましょうか。
「共に成人し、それぞれの夫と結婚している姉妹。両夫婦はそれぞれ愛し合っているが、欲望の強さの非対称性などの問題で、妻たちは性的に満たされない。そのため四者の完全な合意の上で姉妹は同性愛的な関係にも至っている。あくまでも肉体的な欲求不満を解消するための遊戯であり、夫婦間の愛情とは別物。おかげで家庭生活も四人それぞれの社会生活も円満。四人の信頼と相互理解、思いやりに基づいたこういう関係は素晴らしいものだ」
こういうストーリーを『漫画』にし、高校生程度も読者に含まれるヤング誌に掲載。性行為そのものの描写は一般誌でギリギリ許容されるレベルに留めたとしたらどうでしょう?
(しかし何で「実写は除く」なんでしょうね? 漫画は誰でも同じ理解に至るというのなら『あしたのジョー』のラストシーンは何なのでしょう?)

同性で、近親で、肉体的快楽だけを求めた既婚者の婚外関係と、いわゆる「モラル」の側からすれば許し難い性行為のオンパレードを「正当に賛美」するストーリーです。
充分な判断力を有した成人同士の完全な合意で、被害者も迷惑してる人もいません。登場人物全員がメリットだけを享受しています。そんな波乱や葛藤の薄い物語は面白くないでしょうが、まあ思考実験のためですからご容赦を(付け加えれば、このプロットから「同性」の部分を除いて「合意の婚外関係」を結ぶのが「姉妹」ではなく「兄姉」にしても本質は変わりません。その場合は「万全の避妊」というファクターが追加されます)。
しかしここで例示した通り、「不当な賛美」と「正当な賛美」という区別があるのなら、一般的なモラルから逸脱した性関係・性志向を「正当に賛美」する事は可能であり、あり得る事なのです!
(ついでにいうと、日本の法律で認められないのは「近親者の婚姻」「同性の婚姻」であって「近親者の性行為」「同性の性行為」ではありません。もちろん一定年齢未満の者が相手だったり、暴力的に強要したりと、近親者であるか否か、性別が同じか異なるかに関わらず違法な性的関係があります。今回の改正案は「刑罰法規に触れる」と「婚姻を禁止されている」を同列に並記している点もいやらしさを感じます)。

もちろんこういう関係性を好ましく思わず、私がどう主張しようとこれが「正当」とは納得できない人もいるでしょうね。
ここで問題は根本に立ち戻ります。
「不当な賛美」とは何なのでしょう?
「不当に賛美」という語句を用いるという事は、ある「賛美」が「正当」か「不当」かを判断可能、判断すべしという前提に立っているという事に他なりません。
それは単に表現の自由に留まらず、ある価値観や思想信条が「正当」であるか否かを法で規定するという恐ろしい危険に直結しているのです!
ある種の『行為』が法的に制限されるのには一定の妥当性があるでしょう。
しかし価値観などの『内心』に法は干渉すべきではありません。

「不当に賛美」という、今回の改正案で追加されてる語句は、規制の対象を明確にするためのものではありません。
より根本的な人間の自由を、尊厳を、恣意的に侵害するための入り口になるものなのです。
こんな条文そのものの見直しをしようとせず、口頭の説明で「この作品は大丈夫」「濫用はしない」と言われても納得はできません!

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